JASRACとの往復書簡

近況報告

 前書き(という追記)

下記は、私が運営していた別サイト「ツジジンセイを読む。」における歌詞の引用(もしくは転載)についてJASRACとやりとりしたメールの全文です。こちら発のメールで止まっていますが、それ以降JASRACから連絡はありませんでした。

実は該当サイトは2003年いっぱいで閉鎖してしまいました。二つのサイトを回すのは大変だったな、という労力の問題で、JASRACの言い分に納得して閉じたわけではありません。彼らの言う使用料も払うつもりはありません。

このページには多くのサイトからリンクを張られ、いまだに見に来られる方も多いようですが、該当サイトを参照できなくしてしまったことを申し訳なく思います。でもこのメールは「引用とは何か」という話でもありますので、サイトで著作物を引用しようと考えている方などには参考になるかと思います。

歌詞は引用できます。必要な条件を満たした正当な引用であれば、著作権者の断りなしに行って構いません。JASRACもメールのなかで認めているとおりです。いろんなサイトを見てると、掲示板注記なんかで「歌詞は禁止!」なんて書いてあったり。何か歌詞が特別なもののように見えてくるんですよね、そうなるとJASRACの思惑どおりなので。小説が引用できるのと同じように歌詞も引用できるという当たり前のことを、もっと常識化したいというのがこのメール公開の目的でもあります。

 JASRAC→芝田

件名「【重要】JASRACからの著作権に関するご案内」

http://www.tds.ac/~shibata/jinsei/ (http://www.tds.ac/~shibata/jinsei/about.html)

芝田直史様

こちらはJASRACネットワーク課J-TAKT係です。

あなたの運営する上記ホームページでは、JASRAC管理楽曲の
MIDI・歌詞等の音楽データを掲載しておられます。
2001年7月からは、情報料や広告料等の収入を得ないホーム
ページにつき、どなたがデータを作成されたかにかかわらず、
JASRAC管理楽曲の音楽データや歌詞などをご掲載される場合
は、原曲の著作権者であるJASRACの許諾を得て、使用料を
お支払いいただく手続きが必要となっております。

あなたが継続して、ホームページでJASRACの管理楽曲を
ご掲載される場合は、JASRACのホームページをご覧いただき、
該当する音楽著作物についての利用許諾手続きを、オンライン
での許諾申込受付窓口「J-TAKT」
http://j-takt.jasrac.or.jp/default.asp
からおとりいただきますようご案内申し上げます。

また、今後JASRAC管理楽曲を利用されない場合は、すみ
やかに手続きの対象となるすべての音楽データを、ホーム
ページ上から削除され、今後ネットワーク上にJASRAC管理
楽曲をご掲載されないことを誓約され、ご利用期間のご清算
をされるお手続きをされますよう、ご案内申し上げます。

なお、J-TAKTでのお申し込みは、申込月以前までの分は、
申込月以降の分とは別にご登録いただく仕様となっており
ます。
また、JASRACが許諾をお出しできない利用形態もござい
ますのでご注意ください。

JASRACの主な管理楽曲等につきましては、J-WIDで
ご確認ください。
http://www2.jasrac.or.jp/

今後とも著作権および当協会の業務にご理解、ご協力
のほど、よろしくお願いいたします。

JASRAC(社団法人 日本音楽著作権協会)
送信部ネットワーク課 J-TAKT係

 芝田→JASRAC

件名「Re: 【重要】JASRACからの著作権に関するご案内」

JASRACネットワーク課J-TAKT係(※御中付け忘れてます。恥)

サイト「ツジジンセイを読む。」
http://www.tds.ac/~shibata/jinsei/
を作成しております芝田と申します。
ご連絡ありがとうございます。

http://www.tds.ac/~shibata/jinsei/about.html
上記、弊サイトについての説明文までお読みいただけている
ようなのでお分かりになるかと思いますが、
サイト作成にあたっては著作権法を熟読いたしました。
もちろん貴協会のサイトも事前に拝見しており、
使用料を課金するシステムを構築されているのも知っておりました。

その上で、自分がやろうとしているコンテンツは
音楽著作物を利用して発信するものではなく、
コンテンツの論旨上、歌詞の引用が必要なものと考え、
著作権法上の引用の条項にも合致するものと判断いたしまして
コンテンツを作成、公表いたしました。
(※慌てて書いたので主語述語とかとっちらかってます)

そこで、お尋ねしたいのですが、貴協会では
弊コンテンツが引用の条件を満たしていないと
判断されますでしょうか?
または、引用であっても使用料の支払いが必要とお考えでしょうか?
後者でありましたら、引用の権利を侵害するものと
考えますがいかがでしょうか。
前者ということでしたら、お手数ですが、
その根拠をお示しいただけませんでしょうか。
(※喧嘩腰なわけではありません)

ご面倒ですがご回答いただければと思います。
それまでは弊サイトでは現状の状態を維持しておきます。
(メールをいただいた時点でのコンテンツ状況を
貴サイトで参照していただけるようにするためです)
よろしくお願いいたします。

----------------------------------
芝田直史
〒***-**** 川崎市********
***************
TEL044-***-***
(※逃げも隠れもしませんという意思表示に住所電話番号書きました。ここでは伏字にさせてもらいます)
----------------------------------

 芝田→JASRAC

件名「再送いたします」

JASRACネットワーク課J-TAKT係御中

芝田と申します。

以下のメールを先週お送りしたのですが、
一週間たってもご返答がありませんでしたので
届いていないことも考えられ、念のため再送いたします。
ホームページへの問合せ先として載っておりました
アドレスへもCCいたします。

ご連絡いただけませんとコンテンツ削除、料金支払い等の
対応が取りえず、無許諾での使用であるとするなら
その期間が延びてしまいます。
なにとぞご高配の程よろしくお願い申し上げます。
(※以下、前のメールどおりのため省略)

 JASRAC→芝田

件名「Re: 【重要】JASRACからの著作権に関するご案内」

芝田 直史 様

JASRACネットワーク課J-TAKT係です。ご連絡い
ただきながら回答が遅れまして申し訳ありません。

お問い合わせの件につきまして、下記の通り
回答いたします。

> そこで、お尋ねしたいのですが、貴協会では
> 弊コンテンツが引用の条件を満たしていないと
> 判断されますでしょうか?
> または、引用であっても使用料の支払いが必要とお考えでしょうか?
> 後者でありましたら、引用の権利を侵害するものと
> 考えますがいかがでしょうか。
> 前者ということでしたら、お手数ですが、
> その根拠をお示しいただけませんでしょうか。

著作権法第32条「引用」は権利制限の条項ですが、
著作権者の権利を認めないと言う意味ではなく、
創作された著作物に必要不可欠な場合は、
そこまで著作権者の権利行使はしなくともとの最小限
の制限です。
したがって、厳密な条件のもとでの著作物のご利用に
たいして、32条の「引用」にあたれば著作権者は権利
行使はできません。

「引用」は「引用」と認められる利用方法であることが
条件です。
あくまで、研究、論文、報道等で、そのものに著作物
として、創造性があるもののなかに、楽曲,歌詞の引用
が不可欠な場合と判断しております。

また、「引用」は自分の著作物の創作の為に行うもので
あり、「引用」の目的上、正当な範囲内つまり著作物全
体の中で自分が創作した部分が主であり、「引用」され
た他人の著作物が従であるという主従関係が守られて
いることが必要です。
また、目安として、ご利用の分量も関係してきます。

貴ホームページにおけるJASRAC管理楽曲の歌詞の
一部のご利用は、アルバム及びアルバムの収録楽曲
の紹介、解説、批評等ですが、楽曲主体の構成ですの
で、引用にはあたらないと判断しております。

つきましては、JASRACの著作権管理の趣旨を ご理解
いただき、JASRAC管理楽曲を ご利用される場合は、
J-TAKTサービス
http://j-takt.jasrac.or.jp/default.asp
より許諾のお申し込みをされますようお願い申し上げます。

JASRAC(社団法人 日本音楽著作権協会)
送信部ネットワーク課 J-TAKT係

 芝田→JASRAC

件名「Re: 【重要】JASRACからの著作権に関するご案内」

JASRACネットワーク課J-TAKT係御中

http://www.tds.ac/~shibata/jinsei/
「ツジジンセイを読む。」の芝田です。
ご連絡ありがとうございました。

> したがって、厳密な条件のもとでの著作物のご利用に
> たいして、32条の「引用」にあたれば著作権者は権利
> 行使はできません。

とのことですので、安心いたしました。
32条の「引用」にあたるのかどうかということですが、
こちらはもちろん「引用」にあたると考えております。
以下ご説明いたします。

> あくまで、研究、論文、報道等で、そのものに著作物
> として、創造性があるもののなかに、楽曲,歌詞の引用
> が不可欠な場合と判断しております。

> 貴ホームページにおけるJASRAC管理楽曲の歌詞の
> 一部のご利用は、アルバム及びアルバムの収録楽曲
> の紹介、解説、批評等ですが、楽曲主体の構成ですの
> で、引用にはあたらないと判断しております。

との2箇所を参照させていただきますが、
おっしゃるとおり私のサイトは
「楽曲の紹介、解説、批評」を主としております。
これは「研究、論文、報道等」にあたると判断いただいたと
考えてよろしいでしょうか。
「研究、論文」とは具体的に言えば
紹介・解説・批評などのことになるでしょうから。

そして、私の「Webサイト」は創造性のある著作物です。
歌詞の紹介、解説、批評という著作物です。
批評文は他人の発言を写したものではなく、
私が考えて書いているものですし、
他のどこにもないと思われる文脈も(恐らくは)含まれています。
文章が下手でも、論証が未熟であっても、
それは創造性ある著作物と呼べるはずのものです。

それから、歌詞の批評にあたっては歌詞の引用が不可欠だと
考えております。批評する対象、あるいは批評する部位を
引用するのは、どういうジャンルの研究であっても
不可欠ではないでしょうか。道義にもかなっていると思います。

これらの点から、引用の目的(あるいは必然性)については
問題がないと考えます。
以上はいかがでしょうか?

ですので残る問題は
> また、「引用」は自分の著作物の創作の為に行うもので
> あり、「引用」の目的上、正当な範囲内つまり著作物全
> 体の中で自分が創作した部分が主であり、「引用」され
> た他人の著作物が従であるという主従関係が守られて
> いることが必要です。
> また、目安として、ご利用の分量も関係してきます。
という、主従関係の部分かと思われます。

弊サイト内にあります「このサイトについて」
http://www.tds.ac/~shibata/jinsei/about.html
という文章は、サイトを公表し始めた時点からあるものですが、
そこで私は「引用には主従関係を守らねばならない」という意味の
文章を書いています。
「主従関係」という言葉は、案内されるまでもなく存じているわけですし、
主従関係が守られていると判断して引用し始めたわけです。
ですから、一般論ではなく、弊サイトのどの部分がどのような観点で
主従関係が崩れているのだといった言及でなければ
互いに平行線であるような気がします。

こちらの考えとしては、
弊サイトでの引用の目的は「歌詞を披露して鑑賞していただく」
ことではありませんし、
あくまで私の著作物すなわち批評たる文章のほうを
主のものとして読んでもらうことにあります。
歌詞の方を主として味わえるような全文引用にはなっていませんし、
批評する上で必要な部分だけを最小限に引用しておりますので
(それが「正当な範囲内」だと考えますが)
目的としての、あるいは論旨としての主従関係は保たれていると
考えています。

また、引用の分量、文字数についても、私の文章のほうが
引用部より多くなっているかと思いますが、
これには目安がありますでしょうか。
引用は著作物全体の3割以下、というような。
正直申しまして、この部分に関しては私も若干の逡巡があります。
どのくらいの分量であれば公正な慣行に合致するのか、
確かな情報を得てはいないからです。
貴協会のサイトでもその情報がありませんでしたし、
検索できる限りの著作権関連サイトはサイト作成当時に
見て回りましたが、漠然としておりました。
こちらとしては「地の文の分量が引用部分よりも多い」ということで
主従関係が守られていると主張するしかありません。
目安がありましたらご教授ください。

結論的な部分にあります、
「楽曲主体の構成ですので、引用にはあたらないと判断」
という言葉の唐突さを計りかねているのですが、
「楽曲主体の構成」というのが
「楽曲が主、地の文が従になっている」という
意味であるとすれば、上記の理由から楽曲主体の構成ではなく、
引用にあたると主張することになります。

つまり、貴協会に登録し、使用料を支払う必要のない
ケースであると考えております。
いかがでしょうか。

 芝田→JASRAC

件名「Re: 【重要】JASRACからの著作権に関するご案内」

JASRACネットワーク課J-TAKT係御中

芝田と申します。
下記のメールをお送りしてから随分たっておりますが、
返答がないのはこちらの主張にご理解いただいたと
考えてよろしいのでしょうか。

また、可能であれば、このメールのやりとりを
弊サイトで転載させていただけませんでしょうか。
「歌詞は引用であっても不可」といった間違った認識が
Webサイト上で散見されます。
その誤解を解くために、このやりとりが
幾ばくかの役割を果たせるのではないかと考えています。
いかがでしょうか。
(※この返答をもらってないわけですが、載せてしまいました)

お忙しいところかと思いますが、ご回答いただければ幸いです。
無断使用である旨の疑義をかけられている身ですので
このまま収束はできかねます。
なにとぞご理解の程よろしくお願いいたします。
(※以下、前のメールどおりのため省略)

 JASRAC→芝田

件名「Re: 【重要】JASRACからの著作権に関するご案内」

芝田 直史 様

JASRACネットワーク課J-TAKT係です。ご連絡い
ただきながら回答が遅れまして申し訳ありません。

お問い合わせの件につきまして、下記の通り回答
いたします。

著作権法32条の「引用」は創作されたものの中に
引用する必要のある著作物があるというのが条件
です。
つまり、あくまでご自分の考え方を補強する為に、
著作物を引用する場合ということです。

「ツジジンセイを読む」と題していますが、公表され
ているアルバムやシングルCDの楽曲を収録順に
それぞれの歌詞に沿って論評されているケースは、
楽曲と歌詞が主体となり、そこから紹介、解説、批
評をするというのが従の関係となり、著作権法32
条の「引用」にはあたらないというのが、著作権者
であるJASRACの見解です。

尚、同様なケースとして、雑誌等でのアルバム紹介、
解説の中での歌詞のご利用があります。
これも、出版でのご利用として許諾手続きをおとりい
ただいた上で掲載されています。

以上です。
著作権および当協会の業務に ご理解、ご協力の
ほど、よろしくお願いいたします。

JASRAC(社団法人 日本音楽著作権協会)
送信部ネットワーク課 J-TAKT係

 芝田→JASRAC

件名「Re: 【重要】JASRACからの著作権に関するご案内」

JASRACネットワーク課J-TAKT係御中

「ツジジンセイを読む。」の芝田です。
ご返答ありがとうございました。
貴重な時間を割いていただいていることを
心苦しく思っております。
しかし、やはり、
こちらの正当性を主張させていただく事にいたします。

> 著作権法32条の「引用」は創作されたものの中に
> 引用する必要のある著作物があるというのが条件
> です。
> つまり、あくまでご自分の考え方を補強する為に、
> 著作物を引用する場合ということです。

引用の分量などの細目の検討に
論点は移ったと考えていたのですが、
この部分がまだ問題になっているということが理解できません。
「解説のための解説」をしているサイトだとお考えなのでしょうか?

「自分の考え方」はひとことで言ってしまえば
「小説家としての文学作品に負けず劣らず、
辻仁成の歌詞にはすばらしいものがある。
また、文学作品へと繋がる彼の原点が歌詞に詰まっている」です。
それを伝えるために弊サイトは作られています。
その補強として、私の著作物のなかで、
歌詞の引用が必要とされています。
どこが問題なのでしょう?

あるいは「Webサイト」が創造的著作物たりうるということの
こちらの認識が共通のものではないのでしょうか?

アルバム、シングル収録作全曲の解説を収録順にしていますが、
それも上記必要性から生じているものです。
それぞれの歌詞にそって論評したほうが伝わり易いと
考えているからですし、収録順なのもむしろ自然です。

「楽曲主体」という言葉にも紛らわしいものがありますが、
「歌詞を論じる」のだから論の主体が歌詞になるのは
当然のことではあります。
しかしそれは著作権法上の「主従関係」というところの
「主体」とは違うものなのではないですか?

小説作品、短編集と考えてみますと、
各短編を収録順に、作品に沿って、
引用を含めながら解説することは
文芸誌にでも一般によくある形態のものです。
それは短編作品主体の解説ですが、
主従関係でいえば解説のほうが主になるのではないでしょうか。
そのため、正当な引用として、
著作権者(作家)に許諾はいらないものでしょう。

このケースと、歌詞の解説はまったく同じ事例ではないですか?
ですから、音楽雑誌でアルバム解説する際にも、
出版社は許諾を得る必要はないと私は考えます。

それは、許諾が必要だとすると、
批評的な文脈での使用ができなくなるからです。
「批判するなら許可しないよ」と言われてしまうと
正当な解説・批評がなりたちません。
自由な議論、言論のために、
著作権者の権利が一定制限されている、
それが「引用」の規定だと理解しています。

著作権および貴協会の業務については理解しているつもりです。
ただ、どういう場合に引用という判断をされているのか、
具体的な部分がよく見えてきません。
貴協会で引用と認められたサイトなどありましたら
後学のためにお知らせいただけると幸いです。

以上、弊主張へのご理解の程よろしくお願いいたします。