東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』といしいしんじ『ぶらんこ乗り』読了、どちらも5つ星つけました。まったく系統の違う2冊ですが、いずれも著者の「初の長編小説」になります。
いきなり話は変わるようですが、数ある文学賞のなかで、「次に手に取るべき本のガイド」として私が一番有用だと思ってるのは三島由紀夫賞です。いま評価すべき現代文学をきちんと押さえてて、私の志向に近い。受賞作、また候補作でも、読んでみるとヒット率高い。第1回の高橋源一郎から中原昌也、舞城王太郎、古川日出男、前田司郎、三島賞のあとで芥川賞を受賞する作家はいるわけですが(逆はナシとされてる)、全般に「芥川賞を受賞できる程度の大衆性なんて飛び越えちゃった現代文学」がいっぱいの賞です。そんでそういう系統の作品に私はぐっと来ることが多くて。
『クォンタム・ファミリーズ』は2010年の三島賞受賞作です。三島賞受賞作だから手にとってみた、という出会い方をしました。それ以前の批評家としての経歴とかもまったく触れておらず。なんの先入観もなしです。一読するとSF、なんでしょうけど、現在のSFの文脈に疎いので純文学として読みました。端的に傑作。
村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を明示的に対置してみたり、構成や文体にも春樹リスペクト感があって、春樹好きとしてはすんなり読める。気づけばのめり込んでて第一部は興奮したままノンストップ。第二部では批評的というか別の座に座り直した感じで無理やり鎮静させられますが、それもじわじわ来るような。平行世界などネタとしてはオーソドックスではあるけど、「ネットワークにおける虚像をリアルなものとして引き受ける」という観点は現代的で、身にしみました。
一方の『ぶらんこ乗り』、三島賞ということではいしいしんじは何度か候補になっているもののまだ受賞してません。それでも三島賞の受賞・候補作一覧を眺めながら、「いしいしんじも読んでおかないとな」と思った作家、なんです。
『ぶらんこ乗り』は、叙情的でかつ緊密な世界像が、最後までテンション高く保たれてます。このスタイリッシュさで泣けました。こちらも手にとって損のない作品です。おすすめ。