清水義範『騙し絵日本国憲法』レビュー

書誌情報

清水義範『騙し絵日本国憲法』表紙
騙し絵日本国憲法だましえにほんこくけんぽう
1996/04
NDC:913 | 文学>日本文学>小説 物語
目次:二十一の異なるバージョンによる序文 / 第一章 シンボル / 第二章 九条 (ほか)

レビュー

表紙からして騙し絵なバキッと憲法を砕いて遊んだ書。「二十一の異なるバージョンによる前文」はパスティーシュ真骨頂。様々な文体で前文を読み上げるわけだが、松本人志「遺書」風があるのは何というか時代である。
読了:1996/08/01

長めの感想

いつの時代にもさまざまな議論の尽きない我が国の憲法ですが(なんてマクラもどうかと思いますが)、ここまで遊んじゃったら気持ちいいですね。憲法という分かりやすい素材を使った、良質のパスティーシュ見本市になってます。あー、これがパスティーシュってものなのねって。まぁ、彼以外の作家に冠されたのは見たことないですし、知らなきゃ知らないで済む言葉なんですけども、パロディの面白さを生かした小説と思っておけば大枠オーケーです。

なんといってもここは「二十一の異なるバージョンによる前文」がすごいです。「憲法前文」という誰もが知ってる(ことになってる)題材を、いろんな文体で書き分けてます。長嶋茂雄口調であったり、パソコンのマニュアル体だったり、俵万智的であったり(憲法記念日!)しながら、それぞれに前文を読み上げるわけです。

「ところが、ここんとこ見てちょうだいこの日本国憲法だとほら、戦争とこの通りすっぱり縁が切れちゃうの。ほら、すぱすぱといくらでも切れちゃう」なんて実演販売風とか。西原理恵子をパロって憲法漫画まで書いてます、シミズ氏。単純に笑えます。あの緊縛プレイのような原文を笑い飛ばし、高らかにこう宣言するわけだ、「憲法は面白い!」と。

前文以下の章では、もちろん「九条問題」も扱ってます。暴走族が「オレたちのオキテ」を変えようとする過程を描き「憲法改正論議」を揶揄した小説もあります。なぜか突然寄席になっちゃったりもしてます。「短編集」と言える作りなのかどうか知りませんが、趣向が凝らされ、なかなかに読ませる短編が並びます。

いわば憲法論議と憲法自体をともに茶化しちゃってるわけですが、底辺には真面目なものが流れてます。かといって、基本的に「憲法にもの申す」という姿勢ではないんですね。もちろん著者にだって申したいことはいろいろあるでしょうが、日頃なされるような議論はひとまず置いておいて、「分かりやすく絵解く」ことに力点があります。面白いんだからみんなも読んでみようよ憲法、と。

一冊の本で、これだけの視点を提供しながら憲法が語られたことはないでしょう。憲法記念日は過ぎちゃいましたけども、読んでみて損はないはずです。

この時期の「物知り博士」風の、あるいは啓蒙者風の物言いがあまり好きでない人も、これはイケるのではないでしょうか。「騙し絵」と本人が言ってるのですから、騙されてみるのが得策ってものじゃないですか。

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